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オレのモモ

著者/ 白金あろは

イラスト/ 天点

タグ: 三角関係 先生生徒 再会 切ない スーツ ブレザー メガネ エッチ薄め 学園

8年前の夏休み、迷子の少年を案内した大学生の剛司は、翌日の再会を約束する。しかし少年は現れなかった。現在、教師になった剛司は赴任先で、担当クラスの生徒・悠麻に既視感を覚え、夏の記憶がよみがえる。果たして悠麻は、あの日の少年・モモなのか!?


「イチゴ、好きなのか? 美味しいもんな」
 悠麻が楽しそうにケーキを食べるので、剛司も次第に嬉しくなってきた。急に打ち解けられたような気がしてくる。
「中川は授業中はつまんなそうだけど、普段はそうでもないんだな」
 思わず言うと、悠麻は驚いたように顔を上げた。
「……オレ、つまんなそう?」
 この反応が、剛司はむしろ意外だった。
「いや、なんかシラーッとした感じだから。あんまり笑わないし」
 悠麻は困惑したようにうつむく。
「……先生の授業はキライじゃないよ」
「そうなのか。そんならよかった」
 剛司はホッとした。いつも授業など聞いていなそうだったし、話をする機会もなく、自分にはいつまでも慣れてくれないのか、それとも嫌われているのか? と思っていたのだ。
「……え……と」
 思い切って聞いてみようか、と思う。たぶん違うと思うけど、小石川にお祖母ちゃんがいない? と。
 そういえばさっき会ったのもお祖母ちゃんだった。確か母方の祖母のはずだから……。
「先生はお母さんと住んでるの?」
 考え事をしているときにいきなり聞かれて面食らった。
「ああ、いや。……というか、都内にいたんだけど、母が入院するんでこっちに来たんだ。退院したら一緒に住むつもりで、広めのアパートを借りてある」
「ふうん。アパートって学校の近く?」
「学校までは車だなあ。東浦町のコンビニのすぐそばなんだ。便利だろ? ちょうど新築のアパートがあったから」
「でも先生、お父さんは?」
「子供のときに事故で亡くなったんだ」
 悠麻はしばらくポカンとした顔で剛司を見た。その瞳に様々な表情が浮かぶ。悪いこと聞いちゃった、どうしよう、とか、ああ、この人大変なんだな、とか。
 それは同情かもしれないけれど、嫌な感情ではなかった。この年頃の少年らしい、ピュアで自然な、善良なもの。悠麻からはそれしか感じなかった。
「……」
 悠麻はスプーンを持ったまま口を引き結んでいる。おそらく、なんと言ったらいいのかわからないのだろう。大人ならこういうとき、うまく場を取り繕う言葉をいくつか知っている。しかし十八歳では、気持ちはあっても言葉を知らないか、うまく出てこないのだろう。
 しかし仕草から、表情から、悠麻の気持ちは雄弁に表れ伝わってくる。剛司は優しい思いに包まれて微笑んだ。
「気にしなくていいよ。別に父が死んだのは昔のことだし、しかたないことなんだから」
「……。その、オレ……あの、オレも……親が離婚したから、お父さんていなくて……」
「ああ、そうなんだってね」
「でも別に、寂しくないよね。先生にはお母さんがいるし、今は病気かもしれないけど、きっとすぐによくなって、退院できるよ」
「……」
 剛司はようやく気がついた。悠麻は、自分を励まそうとしてくれているのだ。父を早くに亡くした自分に、オレだって父親はいないけど寂しくないよ、と。お母さんはきっとすぐによくなるよ、と。
 なんて不器用なんだろう。剛司はおかしくて笑いたくなった。そんな言葉じゃ真意を誤解される場合もあるだろう。人の気持ちに寄り添うというよりは、自分の心を押しつけているようにも聞こえてしまう。もっとちゃんと国語を勉強しなくちゃ。
「うん。ありがとう」
 剛司はうなずいて笑顔を作る。心の中で、とりあえずもっと本を読むことだな、と教師らしい感想を抱きながら。

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