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執着の黒い描線

著者/ 松浦巽

イラスト/ machi comaki

タグ: 再会 切ない 契約 片想い 社会人 過去のトラウマ メガネ 健気 意地っ張り 童貞 アート エッチふつう 画廊

「個展開催のためなら、何でもやるって? じゃあ――」。画廊で働く春日美鶴はパーティーで偶然、世界的な洋画家の芹沢篤臣と知り合う。彼の絵の素晴らしさに圧倒された美鶴は個展を担当するが、思わぬトラブルが発生。和解のため芹沢が出した条件は、なんと美鶴のカラダ!? 短編「恋情輪廻」も収録。


「まさか――その歳で童貞?」
「――はっきり言わないでください」
 ふだんそれを意識することはめったにないが、美鶴にも人並みの自尊心や羞恥心はある。面と向かって言われると、やはり複雑だ。
「ですから――その――申し訳ございません――ご期待に添えなかったら――」
 いきなり芹沢が吹き出した。
 美鶴が憮然としていると、手首をつかまれて湯呑をとりあげられた。
「いや……いいよ……そのほうがいい――」
 芹沢は笑いながら切れぎれに言うと、美鶴をひきよせ、そっと眼鏡をはずして盆の上に置いた。
 周囲の景色がぼやけ、芹沢の顔しか見えなくなる。
 唇にやわらかいものが触れたかと思うと、芹沢の顔が少しだけ離れた。もう一度くりかえされ、キスをされたのだと理解したときには、体の位置を入れかえるようにして布団の上に押し倒されていた。
「あ――」
 どうしていいかわからず、固まってしまう。
 形を確かめるように頬をなぞられ、しげしげと覗きこまれた。射抜くような目で見つめられて、居心地が悪い。また触れるだけのキスをされたが、気持ちいいかどうかも感じる余裕がなく、ただされるままになる。
「ガチガチだな」
 芹沢がかすれた声で言った。
「もっとリラックスしてくれないと、やりにくい」
「す――すみません」
「電気、消そうか」
 天井の丸形蛍光灯が消され、一瞬あたりが真っ暗になる。
 芹沢の重みがのしかかってきて、ほうっと深い吐息が聞こえた。まるで芹沢も緊張していたかのようだ。
 暗闇に目が慣れると、外からのおぼろな月明かりで、しだいに物の輪郭が浮かびあがってくる。
 自分の上に覆いかぶさる影は、いうまでもなく芹沢だ。黒々として大きい。その影が、急に魔物のように見えて、怖くなった美鶴はもがいて逃げだそうとした。
「待てよ」
 腕をつかまれて乱暴に引きもどされる。
「覚悟して来たんだろう? いまさらできませんなんて言うなよな?」
 芹沢の声で、魔物の幻影が消えた。美鶴は抵抗をやめ、息を詰めて芹沢の出方を待った。
「傷つけたくないんだ。協力してくれ」
 なだめるように言われて、なんとか力を抜く。
 手探りで寝巻の紐を解かれ、前をはだけられた。素肌をなぞられ、くすぐったさにびくっとする。自分のものよりも骨ばった大きな手。他人の手で愛撫されるという初めての感覚に、知らずしらずふたたび体が硬くなってしまう。
 この指が、あの絵を描いた。
 ふとそう考えた瞬間、体の奥がずんと疼いた。
 触れられたところから、えもいわれぬ心地よさがさざ波のように広がり、緊張が嘘のように溶けていく。全身が鋭敏になって、肌の上で動く指先の形までわかるようだ。
「あぁ……」
 思わず漏れた吐息に、甘い声が混じる。
 芹沢が身じろぎし、胸元に顔を寄せてきた。乳首に熱い息がかかり、唇をそっと押しあてられる。性感とまではいかないが、明らかな快さが湧きあがり、もっと触れてほしいようなもどかしい気持ちになった。
 芹沢の重みを、熱を、鼓動を感じる。絵筆を握ってあの感動的な作品を生みだす指が、いまは自分の上を這いまわり、自分の体を何か別のものに塗りかえようとしている。
 まだ一度も使われたことのないキャンバスに、芹沢が最初のひと筆を走らせる。
 見えない絵具は、愛撫の線を重ねながら、精緻で深い快感という名の絵を紡ぎだしていく。
 芹沢の前で、自分が一枚のキャンバスになったような気がして、美鶴はぞくぞくした。
 天才画家の手で、新しい絵として完成させられる。その倒錯したイメージは、動物的本能よりも美鶴を高ぶらせ、不安も恥じらいも忘れさせた。
 額に、頬に、首すじにキスを落とされ、脇腹から胸へと両手で撫であげられる。円を描くように胸をさすられ、臍の方へと撫でおろされて、下着の上から下腹部に触れられる。
 股間が反応し、むくりと頭をもたげるのを感じた。
 布越しの刺激が悩ましく、無意識に体をよじってしまう。
 手のひらで膨らみを包まれ、もむようにされた。勃ちあがった先端が布地でこすられ、息を呑むような快感が駆けぬける。硬くなった部分がどくどくと脈打ちはじめ、全身が燃えるように熱くなってきた。
 下着がずらされ、中に芹沢の手が潜りこんでくる。
 強烈な快感に、びくりと体をひきつらせると、耳元で芹沢の声が響いた。
「すごい――これだけでもう、こんなに感じてるんだ」
 芹沢の呼吸は荒く、熱い吐息が耳に吹きかかってくる。
「そんなに気持ちいい?」
 さすがに恥ずかしくて答えられずにいると、何やらがさがさと物音がして、芹沢の重みが体から離れた。
 下着を両足から抜かれ、露わになった先端に、ひやりと何かが触れる。先端から根元へとこすりおろすようにされると、全体に薄い膜のようなものが絡みつき、強く締めつけられるのを感じた。
 どうやらスキンをかぶせられたらしい。
「もっと気持ちよくしてやるよ」
 何をされるのかと戸惑っていると、ふいに熱いもので包まれ、腰が抜けるような激しい快感に襲われた。
 口でくわえられたのだとわかって、かっと顔が熱くなった。
「ま――待ってください……!」
 美鶴は慌てて押しのけようとしたが、中心を捕らえられているので暴れるわけにもいかない。スキンの被膜ごしにもかかわらず、ねっとりと絡みついてくる舌の感触に全身が粟立ち、強すぎる官能に恐怖さえ覚える。
「待って――やめて――あっ」

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