7000ct0257_cover

艶やかな抑情の花

著者/ 伊郷ルウ

イラスト/ 甘野有記

タグ: シリアス 一目惚れ 社会人 御曹司 美人 黒髪 アート エッチふつう

「勇豪とひとつになりたいんだ…」。偶然見かけた美しい陶器に魅入られた朝永勇豪は、自身が編集する雑誌でその陶器を紹介しようと、作者である桜坂龍遙を探し出す。しかし、龍遙は人間国宝級の陶芸家・龍迅の孫で、未だ作品発表を祖父から許されておらず、彼の生活はすべて祖父の管理下におかれていた。龍遙の美貌と才能に惚れ込んだ勇豪は祖父から独立させるため、彼を支援しはじめるが…。


「男とするの、初めてなのか?」
 一時中断とばかりに真面目な顔で問いかけた勇豪を、龍遙は苦々しい笑みを浮かべて見上げた。
「経験があるように見えた?」
「あっ……いや……なんとなく」
 勇豪は曖昧に言葉を濁したが、実際のところかなり驚いていた。
 衝動的にキスをしたあとの発言は、どう考えても経験者としか思えなかったからだ。
 男と関係を持ったことがまったくないのに、龍遙がああいった言葉を口にしたのかと思うと、勇豪の中に愛しさが込み上げてきた。
 勇豪が感無量といった顔つきで見下ろしていると、龍遙はわずかに身じろぎソファの上で体勢を立て直した。
「格好をつけたってしようがないから白状するけど、女とだって高校を出る前にしたのが最後だよ」
「えっ?」
 まさかと眉根を寄せた勇豪に、なんとも言い難い笑みを向けた龍遙が、胸に刻まれた龍の刺青にそっと触れた。
「これ、高校を卒業してすぐに彫られたんだ。だから、それっきり……」
 龍遙はすべてを言うことなく言葉を切ったが、勇豪には容易に彼の思いが理解できた。
 車の中で「見るな」と叫んだ龍遙を思えば、胸の刺青を他人に見られるのは身を切られるほどに辛いのだとわかる。
 刺青の所在を隠し通すには服を着ているしかない。結果的に龍遙はセックスから遠ざかってしまったのだ。
 高校を出たばかりといえば性欲も盛んな年頃であり、それから今日までの八年あまりを考えると、勇豪は気が遠くなるような気がした。
 けれど、長い年月、刺青を他人に見られないようにしてきた龍遙にとって、今もその気持ちは変わらないのではと思う勇豪は、胸の刺青を隠している彼の片手に触れた。
「これ……俺に見られるのも嫌か?」
 素朴な疑問をぶつけた勇豪に、柔らかな笑みを浮かべた龍遙は、迷うことなく首を横に振って否定した。
「これを目にしたときの勇豪は、すぐに僕の気持ちを理解してくれただろう。それがすごく嬉しくって、そうしたらなんか勇豪には全部さらけ出せる気がしたんだ……だから……」
「男の俺に抱かれてもいいと思った?」
 勇豪の心配そうな問いかけに、龍遙は柔らかな笑みを浮かべたまま、今度はコクリとうなずき返した。
 自分だけでなく龍遙も同じように性別を超え、そして心を開いてくれたと思うと、勇豪は嬉しくてならない。
 愛しさが込み上げてくるいっぽうの勇豪は、早くこの手に龍遙を抱きたくてしかたなかったが、こちらを見上げている彼の顔にはなぜか苦笑いが浮かんだ。
「ただ、どうすればいいかはよくわからないんだ」
 龍遙は肘掛けに背を押しつけたままの格好で、照れを誤魔化すように肩をすくめておどけてみせた。
「わからないのはお互い様だが、どうにかなるだろ」
 軽い口調で言った勇豪もまた、龍遙を見下ろし肩をすくめた。
 男同士のセックスがどういったものかは情報として入っているが、いざそれを実行に移すとなれば、できるかどうかは疑問だ。
 それでも、勇豪には男同士が愛し合う行為に、女とどれほどの差があるのかといった思いもあり、まさにどうにかなると思っている。
 その思いが軽い口調となって表れたのだが、龍遙にとっては聞き捨てならない言葉だったのか、驚きに大きく目を見開いていた。
 龍遙の無言の問いかけをその表情で察した勇豪は、自分も男とは未経験であることを素直に認めた。
「男とか女とか関係なく、おまえを欲しいと思った。心の底から龍遙を欲しいと思ったんだよ」
「勇豪……」
 感極まったような声を出され、勇豪はつい龍遙を抱きしめそうになったが、まだ話すことがあったと我慢した。
「だからさ、さっきみたいに逃げないでくれないか」
「だって……」
「そんなにくすぐったいのか?」
 少しくらい我慢ができないのかといった思いもあって勇豪は訊いたのだが、龍遙は間髪を入れずに返してきた。
「すごく」
 龍遙の言い方からすると、しまいには最中にくすぐったいと笑いだしそうな気がした勇豪は、それならばと彼の背に両手を回しグイッと身体を引き起こした。
「じゃ、やり方を変えるか」
「えっ?」
「とりあえず服は邪魔だから脱ごうな」
 勇豪はもう待てないとばかりに、龍遙が来ているシャツを脱がし、さらにはスラックスのベルトに手をかけた。
「なっ……」
 ビックリした龍遙は慌てて、スラックスのボタンを外そうとしている勇豪の手を押さえたが、それを軽く払いのけた勇豪は、さっさとファスナーまで下ろしてしまった。
「ほら、ケツを上げろよ」

この電子書籍もオススメ

トップへ戻る